それだけが、たったひとつの願い

6.誰よりも笑顔でいて

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 大学を卒業し、四月からカフェに加えてアパレルショップでのバイトを増やしてそれなりに忙しく暮らしていると、季節はあっという間に五月になっていた。

「なかなか連絡できなくてごめんね。お母さんのこと、なんて話したらいいのか迷っていたら電話できないでいたの」

 バイトの合間の時間帯に、私は姉に呼び出される形でふたりでカフェで会った。姉の顔を見るのは五ヶ月ぶりだ。

「由依、元気でやってた?」

 私の様子をうかがう姉は、メイクがいつもより薄めだからか元気がないような印象を受けた。

「私は大丈夫。それよりお母さん……具合悪いの?」

 私の核心を突くような質問に、姉は困ったような笑みを浮かべてうつむいた。

「施設にお願いしようと思ってる。治療をしながら身の回りのお世話をしてもらえるの」

「……そう」

 どうやら姉の口ぶりからすると、入れる施設を探している段階ではなく、もう決まったところに入所間近みたい。

 相馬さんに相談して姉が決めたのだから、私は反対するつもりはないけれど、費用の面は大丈夫なのだろうか。

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