ビタージャムメモリ
11.亀裂
思わず、女の人と歩くんを見比べた。

くっきりした二重の目に長いまつげ。

華奢な顎。

先生と歩くんの似ていないところが、似てる。



「歩くん…」



お母さんが一歩近づくごとに、歩くんの緊張が増すのがわかる。

私の指をきつく握る手は、ひんやりと冷えてきていた。



「話があるの、乗ってくれる?」



彼女は顎で、背後の車を指した。

コンサート会場である建物の前に停められた、高級そうな紺のセダンには、左側の運転席に人影が見える。



「返事くらいしなさいよ」

「話ってなんだよ」

「落ち着けるところで話すわ、乗って。巧は一緒じゃないの?」



探るような目を向けられた私を、歩くんが背中にかばってくれた。

ど、どうしたらいいんだろう…。



「悪い話じゃないのよ、特に歩、あなたにとってね。聞く気があるなら来なさい。それとも巧がいないと不安で何もできない?」



さすが、と言うのか。

お母さんのこの挑発に、乗らずにいられるわけがなく、歩くんは食ってかかるような視線を向けながら、私の手を離した。



「歩くん…大丈夫なの」

「別に、誘拐されるわけじゃねーんだし」



そうじゃなくて。

また傷つくかもしれない。

これ以上、痛い思いする必要なんて、歩くんにはないのに。



「それ、受付に持ってけば並べてくれるからさ、じゃーな」



クッキーを入れた袋を指して、私を安心させるように笑う。

引き止めたいけど、それが正解なのかわからない。



「私…せ、先生、呼ぶよ」

「もう電車乗ってるだろ」

「でも」

「俺なら大丈夫だって」


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