ビタージャムメモリ
04.地雷

「これね、いいよ」

「は?」



だから、と部長がとぼけた顔で両手の指を組む。



「発表会、やっていいよ」

「え…」

「なんかねー、もらった企画書をちょっと手直しして、執行会議にかけたらね、つるんと通っちゃって、むしろさっさとやれって」



え、あの、と整理のつかない頭で質問した。



「さっさと、と言いますと」

「実は役員の一人が知人のコネを使って、会場だけもう、押さえてくれちゃっててね、まあ急と言えば急だけど」

「いつでしょうか」



部長は言いにくそうにきゅっと口をすぼめると、まあいいや、とあきらめたように明るく言った。



「来月」





「ご案内状とか、そもそも発表内容とか、式次第とかお客様のご招待とか、もう、何を、どうしたら、何から、もう」

「香野さん、落ち着いて」



なだめてくれるのは、大手の携帯電話キャリアの広報部員である、下山(しもやま)さんという女性だ。

この道10年になるベテランで、先日の取材で知り合った雑誌社の方が、頼りになるからと紹介してくれたのだ。

今日も、急に相談したのに迷惑そうなそぶりも見せず、すぐに時間を空けて、同じ都内のオフィスへ呼んでくれた。



「幸運だと思いましょ、普通は会場探しと日程決めだけでも、それなりの時間を費やすんです」

「そうなんですか」

「ええ、それから発表日にも気を使います」

「どんなふうにですか?」



海のほうにあるこのビルは、妬ましくなるほど新しく綺麗で、出されるコーヒーまでもが洗練されておいしい気がする。

それを言ったら、気のせいよと下山さんに笑われ、実際のところ使っているサーバーも豆も、私たちの会社とそう変わらなかった。

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