愛してるなんて言わないで
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「湯川社長よりご予約承っています。」



女将さんに案内された部屋は8畳の小綺麗な和室。


湯川社長は社員1家族ずつ丁寧に旅館の予約をしているのかと…


彼の細かさに少し圧倒されながら窓の景色を見ると

気分はすっかり旅行気分に切り替わった。

「わぁ、颯太っ‼窓の外見てよ!すごい綺麗な景色っ‼」


「えー?木ばっかりだよ」

「颯太にはまだ自然の良さが分からないかぁ…

残念‼」


窓いっぱいに広がる自然の景色

青々とした葉の中に

時折り垣間見える赤や黄色の葉は

そろそろ夏の終わりだと告げているようだ…。



「大きいお風呂あるんでしょ?早く入りたいっ‼」


「もうちょっとゆっくりしてからにしよ?」

「やだ、つまんないもん!」


言うことを聞いてくれない颯太が勝手に部屋の戸を開けて出て行こうとするから

慌てて後を追いかけると


「わっ‼」

と、颯太の驚いた声が聞こえて、駆け寄ったその先に


尻餅をついてる颯太と…



そんな颯太を見てけらけら笑ってる…


翔太さんっ⁉



「何でっ⁈」


驚いて声をあげた私に気付いた翔太さんは

「えっ?だって…俺の名前で予約入ってたでしょ?」と意地悪な笑顔を浮かべた。



えっ…?だってそれは…。


挙動不審になる私をくすくす笑いながら見る。


「なに?まさか社員1家族ずつ丁寧に旅館の予約でもいれてると思ったの?」と

私の心を読んだかのように笑う。


「まさかそんなことするわけないでしょ?


しかもまだ他の社員には旅館のチケットは届いて無いはずだから内緒にしててよ?」


悪戯な笑顔を浮かべる翔太さん…。



やられた。




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