屋上へ続く階段の踊り場

誰も使わないせいか静けさの中に男の声が響きわたる。

「俺の出張中に出て行くなんて聞いてない。お前…今、どこに住んでいるんだ?」

言う訳がないじゃない。そのタイミングの待って出て行ったのだから…

「どこでもいいでしょう。お願いだから私に構わないで…」

「そんな訳にいかない。お前が心配なんだ」

詰め寄る男に一歩一歩と後ずさり、壁に追い込まれ逃げ場をなくした。

「心配?なんの心配?あなたといるより安全だわ」

「あ、あれは、お前が振り向いてくれないから仕方なかったんだ」

「仕方がない…よくもそんなこと……血が繋がってなくても兄さんは兄さんよ。
男として見れないし…私には、ちゃんと彼がいるの…」

男の手が私の肩をグッと掴む。

「ッ…離して」

「そいつは誰だ?…俺からお前を奪おうとする奴なんて許さない」

覆い被さるように男が抱きしめようとするから、両手で男の胸を押して小さな抵抗をしてもがくが、所詮、男の力には敵わない。

私の両手を拘束し、無理やりキスをしてくる男の唇を噛んだ。

ッ…

ギラギラとした目をした男は、私の頬を打ち、再び唇を奪おうとする。

「いや…」

誰か助けて…

心の叫びが聞こえたようにギィーとドアが開いて、背の高い男が1人こちらを見た。

「社内で何をしているんです?」

感情のない淡々とした言葉でこちらに歩いてくる。

私を抱きしめていた腕が緩んだが腕を掴んで離そうとしない。

そして、声の主が誰なのか気づいた義兄は笑顔を作り始めた。

「池上部長…屋上でご休憩ですか?」

「………」

無口で対面する男に

「ちょっと、大事な話をしていただけで…場所を変えますので失礼します」

歩き出そうとする義兄の手を振り払い、男の背にしがみついて助けを求めた。

「私は、何も話することなんてないわ」

「だそうだが…」

一瞥する男に義兄は言葉を詰まらせる。

「いえ…部長には関係のないことなので彼女をこちらに」

「そういう訳にはいかない。頬が赤くなっている彼女を渡せない。専務に報告してもいいなら彼女を渡すがどうする?」

専務
常盤専務は5年前に結婚した母の再婚相手で義兄の父だ。

「……いえ、結構です。わ、私はこれで失礼します」

義兄は、私に一度視線を向け苦々しく舌打ちしてフロアへと出て行ってくれた。

ホッとした私は、その場に崩れるようにしゃがんでしまう。