無理矢理な初めては、ドSな幼馴染みだった。

相手役は見たことある顔!?

「ありがとう、おじさん!また待ってるね!」

私は背の小さい、正直小汚ないおじさんにそう告げた後、そそくさとスタッフルームの個室に駆け込み、椅子に腰を下ろした。



……ついに、処女歴最後の接客が終わってしまったのか。


そう考えると、胸が苦しくてたまらなかった。

ふと、私は思った。


「…私は覚悟を決め手上京したのに、なんで今頃泣いているんだろう。」



昔、故郷を出るときには「処女なんてどうでもいい!」というくらいの勢いで出てきたのだが、今、ついにその時間がやってきたとたん、胸が苦しくなったのだ。


私…まさか、あの時の勇気を無くしちゃったの?


…いや、こんなネガティブなことを考えてちゃ、よけいに落ち込むだけだろう。

楽観的、そう、楽観的に考えよう。


「…あーあ、私の処女もこれで終わりを告げるんだ。…どうせなら、家が近かった幼馴染みの、アイツに初めてをあげたかったな、なんて。」


...こりゃあダメだ。
いくら考えても、こんなことしか思い浮かばない。



「…………ん」


そう考えていると、無意識に涙が零れていた。

さっきまで演じていた笑顔の副作用も相まって、私の顔はもうボロボロだ。


こんな顔ではキャバ嬢だなんてとてもいえない。

(かといって「THEキャバ嬢!」という格好もしたくない。)



…私、本当に自分がないなぁ。

こんなままじゃ、たとえ給料があったとしても、相手役なんて集まらないわ。


……あれ、なんか相手役がわざわざお金払ってまで用意したホストなのか、意味がわかったかもしれない。



ふと、時計を見ると、約束の時間まであと二十分を切っていた。

処女は失いたくないが、遅れたりなんかしたら、ただではすまないだろう。


私は香ばしい匂いの漂う、チョコレート色をしたコーヒーをすする、何も知らない後輩を横目に、スタッフルームの扉を開けた。


◇◇◇


約束の場所に着いた。着いてしまった。


私は今でも泣き出しそうな、不安な顔で回りを見渡した。

やはり、私のように暗い顔でうつむいている人が大半だが、中には研修が楽しみで待ちきれないような顔をしている女性もいる。
一体コイツは、どんなビッチなのだろうか。


と、時計の針が約束の時間を指した瞬間、部屋のドアが開き、オーナーが入ってきた。


場の空気が一気に固まる。


これからどんな研修が待っているのか、私には想像がつかない。

だが、今の時点でもこれだけはいえる。


「今年の男は当たりだ」ということだ。


オーナーの後についてきた男達を見る限り、今のところブサイクは見当たらない。

一応、ブサイクに当たることはなさそうだ。
よかったよかった。



だが、そんなことを考えていられる余裕があったのは、そこまでだった。


気がつけば、男達がぞろぞろと、それぞれの担当の女性の前に移動しているではないか。

これはまずい。

もうすでに喜びの声をあげている女性もいれば、「となりの子のほうが好みだった」と落胆の声をあげている者もいる。

私の前にはまだ男はいない。


やばい、緊張してきた。


ドクン…ドクン


どうしよう、胸の鼓動が鳴りやまない。

あ、目の前に男の人、来た。
足、細い……。


まぁそんなことよりも、とにかく、顔、見なきゃ。


私がありったけの勇気をを振り絞って、恐る恐る顔を上げるとー




「しーちゃん?なの?」

「あ…れ?君、あいちゃん…」


160cmしかない背丈に、くりっとした瞳。
そしてその童顔。


ー間違いない。



幼馴染みの、成之[しげゆき]だ。
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