主任は私を逃がさない
攻められっぱなしの初戦

『なに? 陽菜のお母さんがどうしたって?』

「私のお母さんじゃなくて、“おっかさん”! 大衆食堂、おっかさん!」


 私はお店に入ってすぐさまトイレに駆け込み、友恵にSOSを発信した。

 このトイレがまた、薄暗いスペースに豆電球ひとつがポツンとついてる、古い公園トイレみたいな内装で。

 都市伝説のような怪談じみた雰囲気の中、半ベソをかいてスマホを握りしめながら非常事態を訴える。


「友恵どうしよう。史郎くんがなんでこんなお店に私を連れて来たのか、まったく考えが読めない」

『落ち着きなさい陽菜。ここで取り乱したら敵の思うツボよ』

「思うツボ?」

『取り乱した姿を見せちゃだめ。逆に大人の対応を見せつけてやるのよ』


 ……そ、そうか。相手の趣味にケチをつけて大げさに騒ぎ出すようでは、精神的に自立できた大人の女性とはいえない。

 これが『男のプライドを傷つけてはならない』ってやつなのね?

 きっと史郎くんは私の動揺を誘って様子を見ているんだ。さすがクセ者。

 敵の盲点や隙をついて、そこを集中攻撃するのは彼の得意な営業戦法だ。


「友恵、ありがとう。なんとか落ち着いてきたみたい」

『頑張って。大人の女を演出するのよ』

「うん!」

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