眠れる夜の星屑涙
夢とか責任とか
 
 エレベーターを降りると、窓の外は暗闇に染まっていた。きらめくビル明かりに埋もれて、星は見えない。

「最悪だわ」

 静まり返ったフロアにヒールを突き立て奥のデスクに向かうと、寝入っている彼の姿が目に入った。

「起きて」

 私が触れると、細身の身体がぴくりと反応した。ややあって、閉じていた目に光がともる。

「梨花、戻ってきたのか」

 会いたかったよ、と曇りのない目で言われて、私は声を尖らす。

「私はあんたになんか、会いたくなかった」

「むりやり俺を起こしたくせに」

 昼間は20人の社員が忙しく動き回るオフィスだけど、21時を回ったこの時間はさすがに誰も残っていない。真正面から刺すような視線をよこす、彼以外は。

「ついさっき先方から連絡があって、田中くんに届けてもらった書類に不備があったそうなの」

「またあいつか。だから俺が送るって言ったのに。それで梨花が尻拭いか? こんな時間に」

「仕方ないわ。部下のミスは上司の責任だもの」

 プロジェクトリーダーに任命され、はじめて取り組んできた大きな仕事だった。こんな些細なことでフイにするわけにはいかない。

「明日の午前中までに作り直して送らないと」

「そしてお前は俺がいないと何もできない」

 そうだろ? と挑むような目線に、私は唇を噛む。

「……そうよ。分かってるなら今すぐ起きて」


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