指サックの王子様
オレ、お前が使ってる指サック
「だから、この報告書がおかしいんだよ! やり直し!」

デスクに叩きつけられた分厚い冊子は、毎日残業して一カ月かけて仕上げた報告書。

それをきちんと見もせず却下した鬼部長に睨みをきかせると、私はそれを自分のデスクのゴミ箱に投げつけた。

「悔しい……」

唇を噛み締めて向かう先は、給湯室。

私がいる部署は事務員は私ひとりしかいないから、この給湯室はほとんど貸切みたいなもの。

他の社員は営業マンばかりで、日中は大嫌いな鬼部長とふたりきりだ。

「ホント、あの部長ムカつく。ちゃんと見てから言えっての」

給湯室の窓から見えるオフィス街を見下ろしながら、じわりと涙が出てきた。

すると……。

「そうだよなぁ。オレも、あいつキライ。だいたい、梓(あずさ)は優秀な事務員だと思う。それをなんだよな、あの言い方」

突然、若い男の人の声が聞こえて、驚いて振り向いた。

入り口には、背の高いイケメンくんが立っている。

見た目同じくらいの二十代後半くらいのその人は、アイドル並の甘いルックスをしていた。

「あ、あなたは……?」
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