史上最悪!?な彼と溺甘オフィス
5章 初めて知る温もり
「ーーそれでは、夢見ヶ丘テラスオープンです」

暖かな春の陽射しが降り注ぐなか、わーという歓声とたくさんの拍手につつまれて開業セレモニーが始まった。

我が社の社長とゲストとして呼ばれた最近人気のモデルの女の子が並んで、真っ白なテープをカットする。

集まったマスコミがここぞとばかりにシャッターを切る音が耳に響く。


夢見ヶ丘テラスは予定通り、本日無事に開業を迎えた。

開業前から様々なテレビ番組で取り上げてもらったし、今日集まった報道陣もお客様もかなりの数だ。

順調な滑り出し、明日から1ヶ月は忙しく過ごすことになりそうだ。



「お疲れさん。 やっとここまで来たな」

隣に立つ霧島さんがそっと私に囁く。
昨日はほぼ徹夜状態だったにも関わらず、今日もきりりと隙のない立ち姿だ。

「お疲れさまです。頑張ったかいがありましたね」

怒濤の日々を思い返しながら、改めて完成した夢見ヶ丘テラスを仰ぎ見る。

広いテラスのある珈琲ショップも、今年流行りのスプリングコートを飾るアパレル店も、緑溢れる憩いの広場も、どの場所にもたくさんの人の思いがこめられている。


その思いが一人でも多くのお客様に伝わるといいな。


正直に言えば、大手ならどこだって良いと思って決めた就職先だし、強く希望していた訳ではない配属部署だったけど・・・今はこの仕事が好きだって心から思える。


「あの、霧島さん」

「なんだ?」

私は霧島さんに向き直ると、おもむろに頭を下げた。

「ありがとうございました。霧島さんと一緒に仕事が出来て、すごく勉強になりました」

「なんだよ、急に」

霧島さんは少し照れたように視線を逸らして、笑った。

私はその笑顔をじっと見つめる。

霧島さんの笑顔を見るのはすごく久しぶりだ。


最後のデート以来、私達はただの同僚に戻った。

霧島さんは以前と変わりなく私に接してくれたし、私もそのつもりだった。


けど・・・どうしても霧島さんの顔を直視できなくて、いつも視線を逸らしては霧島さんのシャツの襟元ばかり見つめていた。
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