視線の先【ぎじプリ】
視線の先
「福原さん! 照井さん、3階の第2会議室にいたから連れてきたよ」

同じ課の柴田さんはそう言いながら、照井さんを連れてこの第1会議室に入ってきた。

「あー! ありがとうございます。よかった。ちょうど探しに行こうと思ってたんです。約束してたのに、なんでそんなとこに」

照井さんを見ると、ふんっと視線をそらされた。


約束の時間を過ぎているのに肝心の照井さんがまだつかまらなくて、この資料を配り終えたら探しに行くつもりだった。

「えっと、何か手伝うことある?」

柴田さんは会議室を見渡してから、私に確認する。

「いえ、あとはこれを配ったら終わりなので大丈夫です。照井さんを連れてきてくださって助かりました。柴田さんは会議が始まる5分前くらいにまた来てください」

「了解。いつも準備ありがとうね。じゃ、また30分後に」

「はい、こちらこそ本当に助かりました。ありがとうございました!」

柴田さんが扉を閉めると、少し不機嫌そうな照井さんと私が会議室に残された。物腰の柔らかい柴田さんがいなくなったこともあり、なんとなく部屋の中にピリリとした空気が漂う。だけどそれはいつものことで、照井さんが不機嫌なのはデフォルトだから気にはしない。


ここ5階にある3つの会議室はすべて少人数用の小さな会議室で、5~6人での打ち合わせで使われることが多い。私の課は私を含めて5人ということもあり、ミーティングをするときはいつもここを使っていた。


「猫かぶった声だな、相変わらず」

「そんなことないです。地声ですよ。ていうか照井さん、約束してたじゃないですか! 毎週水曜日の16:30から東京の上司と会議だから15:45から準備するって。困りますよー、向こうと接続確認もしなきゃいけないんですからね」

「んなこと言われても俺にも予定があんだよ。急遽別の会議が入ったんだから仕方ないだろ。つーか毎回準備に45分もいらないだろ。フクは早すぎんだよ」
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