霧雨。柔らかい雨でも、二人の女を少しずつ湿らせていく。
 気を失っている人を背負って、心優はゆっくり前進する。

 雨、勤務の中心である棟舎が離れているのもあるが、幸いにして人がいない。でもあと三十分もすれば、ランチタイムで人が動き出す。

 その前に、その前に、宿舎へ――! 重い一歩を、心優は繰り返す。腕も鍛えているので、他の女性よりは腕力がある。でも、重い……。


ごめんなさい


 耳元でそんな声がして、心優はハッとして立ち止まる。首筋に温かい息を感じた。

「ごめんなさい。降りて自分で歩きたいけれど……、力が入らないみたい……」
「准将! 気が付かれましたか」

 ああ、良かった。と力が抜けそうになった。

「大丈夫です。寄宿舎のわたしの部屋までお連れします。そこへ内密で、長沼准将が来てくれますから」
「ありがとう……、園田さん」

 力無い息だけの声になったので、心優はまた不安になる。でも気が付いて、彼女が心優の肩にしがみついただけで、少し軽くなった気がする。

 寄宿舎が見えてきた。あと少し……。もうちょっと!

「あそこね、私が死にかけた場所なんだよね」

 心優の首にしがみついているミセスが、独り言のように呟き始める。

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