素直になれない7センチ
「自惚れていい?」



————翌日も7センチのハイヒールを装備して、駅から会社まで徒歩で向かう。


結局あの後、明日は用事があるから無理だと言われてしまって、ご飯に行く日時が決まらないまま。



「はあ……」


って、なにため息吐いてるの。

ご飯なんていつでも行けるし、今日はプレゼンなんだから気持ち切り替えないと!


つま先が痛んだって、ゆっくりしか歩けなくたって、私はこのハイヒールで会社まで歩く。



泣きたい時もこれで耐えてこれたんだ。

この痛みを感じている間は、このハイヒールを脱ぎ捨てるまでは自分の弱さに負けてたまるもんかって踏ん張れる。


強がって可愛げないかもしれないけど、泣きたくないし、弱さに負けたくない。




きっかけは入社一年目に大きなミスをしてしまって落ち込んでいた私に先輩が自分の失敗談を聞かせてくれたんだ。

先輩は頑張ろうって気持ちになれるおまじないとして、会社にいる間はギュッと高い位置で髪の毛を結んでお気に入りのバレッタをつけるって言っていた。



だから私も先輩みたいに何かおまじないみたいな……頑張ろうって気持ちになれるようなものがほしくって、休日にふらふらと探し求めて買い物をしていると出会ったのが一足の真っ赤なハイヒールだった。



自己主張が強くって、7センチって履いてみると結構高い。

つま先も狭くって窮屈だし。


だけど、何故だかそのハイヒールに惹かれて、試しに会社まで履いてみることにした。


不思議なことにハイヒールを履いて行くと身が引き締まる気がして、嫌なことがあっても頑張れた。


それから私は何足か同じ高さのハイヒールを購入して、おまじないとして会社まで履いていくようになったんだ。







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