誰か私の話を聞いてください
オフィスの王子さま
「はぁー......」


金曜の夜、他の同僚たちはみんな帰って静まりかえったオフィスで、私は豪快なため息をついた。


「どうかしたの?」

「ううん、なんでもないよ」


いけないいけない、誰もいないと思って、ついつい素になってしまった。いつのまにか私の隣にいたカレに、あわてて笑顔を作る。


「なんでもないようには見えないよ?
何かあったなら話してみて」


私と同期入社で、入社したときからずっと一緒。
背が高くて、いつも笑顔のカレ。

なんだかカレって、何でも話せてしまうような不思議な安心感がある。


「本当に大したことないから。
愚痴なんて聞いてもつまらないでしょ?」


優しいカレに話を聞いてほしいけど、やっぱり話せない。


私ってつい話しすぎちゃうのか、この前も同期の友達にグチ多すぎと言われたばかりだ。

カレにまで嫌われたら、本気で会社での居場所がなくなってしまう。


「そんなことないよ。
君がそんな顔してると、こっちまで元気がなくなる。
だから、話してよ。
俺で良かったら、話聞くから」


......話さないって決めてたのに。


優しい声に、おだやかな笑顔。
やっぱりカレには、何でも話してしまう。


カレには隠し事をしても無駄だと悟り、私は全てを話した。
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