強引同期と恋の駆け引き
 № 2 



 ◇ ◇ ◇


三月上旬に降った大雪のせいか、あいにくと桜の開花は気象庁の予想よりも遅れ、日当たりの良い枝にチラホラと数輪が咲き始めるに留まった、三月の最終土曜日。
取引先の御曹司を見事に射止めた戸嶋さんの挙式披露宴は、都内の一流ホテルで行われた。

純白のレースをたっぷり使ったプリンセスラインのウェディングドレスに身を包んだ彼女は初々しくて、脂下がった新郎の顔は見ているこちらが恥ずかしくなるくらい。
もしあのウェディングドレスに年齢制限があったら、間違いなく私はアウトだろう。

彼女の夢と幸せが過剰なほどに詰め込まれた式に、すっかりあてられた私は両手のひらに乗った花びらにため息を落としそうになって、慌てて飲み込む。

ダメダメ。お祝いの場には不謹慎。

新郎新婦のお出ましを待つ列の端に収まった私の横には、細身のダークスーツの久野が立って、もれなく渡された花弁を手に眉根を寄せている。

ビジネススーツは見慣れているけど、ちょっとデザインが変わっただけで、こうもスタイリッシュになるものかと感心させられるほど、様になっていた。

現に、通路を挟んだ反対側の新婦ご友人一同の視線が一身に集まっていることに、果たして本人は気がついているのだろうか?


あぁ。久野なら、シルバーのフロックコートなんか似合いそうだな。でも、和装も意外にいけるかも。

不躾に見上げた視線に気づいた彼が訝しげに目を細め、手の中の花びらを持て余したように言った。

「こんなもの撒いて、なにか楽しいんだ? 掃除が大変だろうが」

あいかわらず、乙女の夢にケチを付けてくる。

「花びらが舞う中でたくさんの人たちに祝福されるなんて、素敵じゃない」

残念ながら戸嶋さんが望んだ桜ではないけれど。

微かに香る淡い色合いのバラの花片が、満面の笑みを浮かべた二人の上にお祝いの言葉とともに降り注ぐ、幸せな瞬間の演出のお手伝いができるのだから。

熱弁する私に、ふぅんと気のない返事が返ってきた。




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