桜の木の下に【完】

春。


「だりぃって学校…」

「仕方ないだろ。進級しなければ社会に出るどころか卒業すらできないんだからな」

「わかってるけどさ…とにかくだるいって」


「座学が特に」と青年は言い、欠伸を噛み殺して正門をくぐった。

しかし、彼らの通う学校は普通の学校ではない。

『幻獣』と共存できる人材を育てるために造られた学校だ。男女問わず、『幻獣』を目視できる人間だけが集う場所。

そんな学校に私は転入することになった。


「……学校でかいなあ。友達できるのかな、できるといいな…ぼっちは嫌だもん」


前にいる二人の青年に習い、私も正門をくぐった。


「は、入れた……!」


私は歓喜に声を震わせた。

この学校には結界が張ってあり、一般市民は入れないようにしてある。その結界は人避けだけでなく、『幻獣』が外に出ないようにするためでもあった。

でも、門をくぐってみても『幻獣』の姿は見当たらなかった。


「……やっぱり、ね」


ここに来れば何かが変わると信じていたのに、その希望は見事に打ち砕かれた。


「白虎丸!元気だったか?オレがいなくて寂しかっただろ?な?可愛いなあオマエ!」

「大蛇、あなたはまた太りましたか?ダメですよ、ツチノコみたいになっても知りませんからね」


今まで元気の無かった青年は白虎丸、と呼んではしきりに何かを撫で下ろし、彼の相方は膝を曲げて地面を見ながらオロチ、と呼んでいた。

見渡せば、その他の生徒も笑顔で何かに話しかけている。

でも、私は…


「げ、マジだな、大蛇太くなってやがるぜ」

「大蛇、やはり痩せましょうか今すぐ」


私は…『幻獣』を見ることができない。
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