桜の木の下に【完】

集会


*悠斗side*


「おはようございます」

「これで全員か」


ぐるりと舐めるように当主陣を見回した頭領は隣に声をかけた。

頭領は幻獣使いを束ねる、一番偉い役職に就いている方で、この中で一番権力を持っている。

隣には幹さんが座っていた。桜田家は腕を見込まれて、頭領の右腕に位置している。

代替わりをしたせいか、見慣れないその顔ぶれに俺たちはどこかよそよそしさを感じた。

最後に謁見の間に足を踏み入れた俺が挨拶をし、腰を下ろした瞬間、集会が始まった。

集会には何度か参加してきたが、なかなかこの厳粛とした空気には慣れない。慣れてはいけないものなのかもしれないが。


「単刀直入に言おう、この中に『明月(めいげつ)』に通じておる者はおるか?」


『明月』という単語にざわめきが起こった。

それもそのはず、桜田家先代当主の佐吉さんの、行方を眩ませた幻獣の名前だからだ。

その明月に関わっている、つまり匿っている者がこの中にいるか、と問われた。


「静かに」


頭領は短く言いきった。その抗えない言葉に一瞬にして部屋が静まりかえる。

皆が自分に集中しているのを確認すると、その重そうな口が開かれた。


「佐吉殿が亡くなってから二晩を過ぎようとしておるが、一向に見つからず、消滅した気配もなし。誰かが力を与えておるのは明白じゃ。さらに、明月は桜田家の長女を狙っておるという。迅速に対処すべき問題であるのは皆の知るところ」

「どうか、申し出てはいただけませんか。これは桜田家のみならず、幻獣に関わる者全てに関係します。長女は力を封印されてからというもの、幻獣と関わることは一切ありませんでした。つまり、明月の力に抗う力を娘は持っておりません。私の娘を乗っ取り社会に溶け込んでしまえば何が起こるか予想もつきません。幻獣の影響力は未だ未知数です……どうか!どうかお力添えをお願い申し上げます!」


この短期間に少しこけた顔をしている幹さんは頭を深く下げ、ついには床に達してしまった。それほど、この問題をいち早く解決したいと強く思っていることが表れているのがわかる。

頭領に促され頭を上げたものの、名乗り出る人がなかなか現れなくて落胆の色を隠せないようだった。


「うむ。当主ではない者や、わしの知らぬところで活動しておる者の可能性はある。仲間内で疑い合うのは本意ではないが、致し方ない。家族一家、順番にわしのところに参られよ。御祓(みそぎ)を行う。順番は今日この場で決めるのじゃ」


頭領は杖を使いながら器用に立つと、謁見の間から部下を引き連れて去って行った。

張りつめていた空気が緩んだのがわかったが、完全には緩まなかった。

まだ気を抜くわけにはいかない。

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