桜の木の下に【完】

神楽


「……冷たっ!」

「あ、ごめん」


急に首筋に冷たいものが当たって目が覚めた。直後、耳に届いたのは謝罪の言葉。


「汗だくだったから拭いてたんだけど、手が冷たかったみたい」

「あなたは……?」

「あたしはのっちのお父さんのとこにお嫁に来た血筋の人で、のっちと同い年だよ。名前は神楽」

「神楽?……ん、のっち?」

「ののだから、のっち」

「……」


オシャレというか、キラキラしてるっていうか、前にお祖父ちゃんが買ってきたファッション雑誌のモデルが着ていたような綺麗に服を着こなした女の子。

冷たいと思った手の爪には、ピンク色のマニキュアが塗られていた。

そんな彼女…神楽は私に『のっち』というあだ名を勝手につけていた。まあ、なんと呼ぼうが個人の自由だけど。


「実はね、あたしも同じ学校に通ってるんだよ」

「そうなんですか?」

「え、なんで敬語?タメで良いって。まあ、あたしはAクラスだから学校じゃあんまり会えないかもしんないけどね」

「Aって…一番強いクラスだよね」

「一番?Sには負けるって」

「……S?」


はて、Sなんてあったかな。Aまでだって聞いてたんだけど。


「まあ、Sはトップシークレットで知ってる人はごく僅かだから知らなくても不思議じゃないよ」


そんなのをこんなに軽々しく教えていいのだろうか。

でも、そんなオープンな彼女に警戒心を持つ理由が見当たらなくて。


「ふふ…そういうのは教えない方がいいよ」

「あ、笑った!笑った顔ちょー可愛い!」

「可愛…」

「皆に起きたこと言って来るねー」


私が神楽の言葉にカチンコチンに固まっている間に彼女は部屋から出て行った。彼女といるとタイミングがわからないっていうか、調子が狂うっていうか。

あれ、そう言えばここ、私の部屋だ。

確か、転んで気を失って……

……それで?


「……健冶さん!」


彼はどうなったの!?
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