あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】

恋は素直になる媚薬

 会いたいと思う気持ちが届いたのだと思う。一生懸命仕事をしたからのご褒美だと思う。私の目の前には小林さんがいて、それも私の一番好きな素敵な笑顔を見せている。

 
 月明かりの下で微笑む小林さんはまるでお伽噺に出てくるかのように光輝いているようにさえ見える。スーツ姿のままだから、きっと、私のメールを見てからすぐに会いに来てくれたのかもしれない。少しネクタイを緩めた姿がとても魅力的だった。


「仕事お疲れ様」


 たった一言の優しい小林さんの声で、今日、一日、悩まされたこめかみのズキズキするような痛みさえもさーっと消してしまう。こういうのを癒しというのだと私には分かる。頭の中を支配していた仕事も今は何もなく、小林さんだけが私の中に居る。


「さっきはすぐに切ってごめんね。車を運転していたから」


「いえ。あの…。嬉しいです」


「え?」


「小林さんが会いに来てくれて嬉しいです」



 私が自分の気持ちを素直に言葉に出来た。そこには恥ずかしいとか、小林さんがどう思うかとか考えてなく、ただ、私の心の中の気持ちが素直に言葉になってそれが零れだしただけのことだった。


 小林さんはフッと顔を緩め、目を細めて私を見つめる眼差しは優しさに満ちていて私を急にドキドキさせていく。自分の言葉が急にリフレインされ、顔が真っ赤に染まるのを感じた。


「美羽ちゃんにそんな風に言って貰えたなら、来た甲斐があるね。まあ、俺が顔を見たかっただけだけど」


 顔を見たかったのは私も一緒。

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