恋は天使の寝息のあとに
第六章
*** 八ヶ月前 ***



生後八ヶ月を越えた頃。
抱きかかえた心菜の身体が驚くほど熱くて、その異常に気がついた。
初めてのお熱。

今まで風邪なんて引いたことがなかったのに、突然四十度という突き抜けた体温を叩き出し、終いには手足に赤い発疹が浮き出てきたからもう大変。

よりにもよって土曜日の夜で、どこの病院も開いていないし、ひょっとしたらこのまま心菜が死んじゃうんじゃないかって、私は気が気じゃなかった。

はぁはぁと呼吸を荒げる心菜の枕元でそわそわとしながら正座している私を見て、恭弥が嘆息する。
彼は隣にしゃがみ込んで、落ち着け! と、私の額を指で弾いた。

「明日の朝になっても熱が下がらなかったら、病院に連れていこう。
じゃあな。お前もちゃんと寝るんだぞ」

そう言って立ち上がったから、私は咄嗟に彼の服の裾を掴んだ。

「もしかして、帰ろうとしてる?」

「……そうだけど」

「……嘘でしょ、やだ、行かないで」

「は?」

勝手なことを言う私に、恭弥は少しイラっとして眉を歪めた。
私は不安と恐怖でちっちゃくなりながらも、消え入りそうな声で彼を引きとめる。

「……夜中に痙攣し出しちゃったり、意識がなくなっちゃったり、もっともっと熱が上がって心菜がおかしくなっちゃったら、私どうしたらいいの?」

マイナス思考が止まらない。最悪のシナリオが頭の中でどんどん膨らんで、収集がつかなくなる。


「……なってもないことを考えたって、仕方がないだろ」

恭弥がうんざりとした顔でため息をついた。
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