without you
「お金がない」と焦る気持ちは、私の中で小さじ・・いや、大さじ1杯くらいはあった。
でも、私の思う“デキる秘書”を鮮明にイメージして、それを自分自身に投影させたいという想いの方が、それよりもっと強かった。

採用される保証もなければ、面接までこぎつける確約もなかったのに、その時の私は、自分が思う「デキる秘書」になりきっていたからか。
絹が混じった少し光沢のある白い長袖ブラウスと、濃紺の膝丈タイトスカートを着て、肌色のストッキングと8センチヒールを家の中で履いて、優雅に歩く練習をしたり、面接ではたぶんこういうことを聞かれるだろうと予測を立ててはそれをメモしたり、鏡に向かって自分に答えて、面接の練習をしながら、同時にデキる秘書はこういう口調で答えるとか、デキる秘書はこういう姿勢でパソコンを打つ、といったことまでシミュレーションをして、自分を徹底して“デキる秘書”に仕立て上げていった。

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