パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
第2章

①過ち



久しぶりに飲もうよ。
そう琴美に誘われて、仕事を定時で切り上げてふたり並んで歩き出す。

部長にあっくんへの気持ちがばれてしまってから、一カ月ほどが経過していた。

金曜日の夜は部長の部屋で過ごすことがこの頃の定番。
でも、今日の部長は残業があるらしく、喜んで琴美の誘いに乗った。


「どこに行く?」

「最近オープンしたばかりの居酒屋を発見したんだけど、そこなんてどう?」


そんな会話をしながら歩いている時だった。
目の前を横切った人物が、私の視線をさらっていく。
あれ? 今のって……。


「どうかした?」


立ち止まった私に、琴美が振り返る。


「あ、うん……」


曖昧に返事をしながら、その背中を目で追って行く。

でも、一緒にいるのはあっくんじゃない。
人違いかな。
紗枝さんだと思ったのは、見間違いかな。
そう思ったものの、何かが心に引っかかる。

< 107 / 282 >

この作品をシェア

pagetop