パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

⑤ふたりだけの夜に



部長の部屋でロールキャベツを作った翌日のこと。


「おはようございます」


挨拶を交わしながらデスクに着くと、いつもはすでに出勤している部長の姿が見えなかった。

朝から誰かと打ち合わせかな。
そう思いつつ、ミーティングルームのほうに目を向けるけれど、誰も使っている様子はなかった。


「おはよ、二葉」

「おはよう。ね、部長は?」


私より早く出勤していたらしい琴美が、コーヒー片手に席に着いた。


「部長なら、出張だって」

「出張?」


夕べ、そんなことはひと言も言ってなかったのに。
何も言ってくれなかったことがちょっと寂しくて、妙に落ち込む。


「部長に何か用事?」

「あ、ううん。何もないよ」


慌てて笑顔で誤魔化した。

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