パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

⑥ふたつの葉



紗枝さんが突然の訪問をした翌日の夜。
訪れた部長の部屋で、目の前に積み上がった段ボールを前にして仁王立ちをする。

さて、取り掛かろうかな。
片付けが苦手な部長に代わって、一番上の箱に手を掛けた。

夕方近くになって出張先から帰って来た部長は、報告書のまとめと留守中にたまった書類のチェックで忙しくて、退勤時間を過ぎてもパソコンから顔を上げることはなかった。

段ボールから出て来た洋服はクローゼットへ、本や雑誌類はキャビネットへ。
着々と荷物を片付けていくと、段ボールのひとつから明らかに部長のものではない物が出て来た。

これって……元カノのかな。
きっとそうだよね。

それは、明らかに女性物のエプロンだった。

ということは、キッチンの棚にたくさんあった鍋も、元カノの置き土産?
あれほどの種類の鍋を使い分けるくらいなのだから、料理上手な彼女だったのかも。

そう思うと、妙にキリリと胸が痛んだ。

ホワイトシチューなんて、作らなければよかった。
ついさっき出来上がったばかりのそれを遠目に眺める。
ロールキャベツを美味しそうに食べてくれたから、つい調子に乗って作ったはいいけれど。
元カノとの腕前の差は、それを知らなくても歴然だった。

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