社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
第三章
第三章

あれからと言うもの、成瀬とは挨拶くらいしかまともに話をしていない。話かけられそうになったらうまく避けるようにして、極力関わらないようにした。

そうしないと今の私はすぐに自分の心のバランスが崩れてしまいそうだったからだ。

そして私は失恋の痛手をごまかす様に、周りが心配するほどに仕事に打ち込んでいた。
今月は半年ほどずっとアプローチを続けていた新規の会社から契約をもらうことができたし、お客様から紹介してもらった会社でも契約をとることができた。

ある程度の年数をこなすと既存のお客様に対してのアプローチがメインになりがちだが、新人のころを思い出して、新規開拓にあたるのも大切なことだ。

十九時半いつもどおり必死で残業をこなしていると、背後から声をかけられた。

「頑張ってるな!」

深沢部長がデスクまできて、新規の顧客二件獲得の労いの言葉をかけてくれたのだ。金額自体は大きくはないけれどきちんと見てくれていて嬉しくなる。

「新規は、時間と労力がかかる。それに信頼関係を一から築くのは大変なことだ。二件もよく頑張ったな。これからも期待してるぞ」

「ありがとうございます」
去っていく深沢部長の背中にお礼を言うと、手をヒラヒラと振ってくれた。

深沢部長は日芝の社長の息子だが、ボンボンだの二世だのと彼のことをいう人は社内にいない。それだけ現場のことをよく見ているし実力もある人だ。

近いうちに経営陣に加わることは間違いない。
< 55 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop