やさしい先輩の、意地悪な言葉
怖さを感じる夜
「瀬川さん、朝頼んでおいたうちの店の預金成績のグラフのことなんだけど」

「はいっ! すでにできあがって今お持ちしようとしたところですっ」

「えっ、もう? 帰るまでにやっといてくれればいいよって言おうとしたんだけど……。すごいじゃん、どうしたのそんなに張り切っちゃって」


……張り切ってるわけじゃないんですけど、仕事にとにかく集中してないと、余計なことを思い出してしまうんです。私はグラフの打ち出しを課長に手渡しながらそんなことを思った。




……土曜日の、あのあと。
酔いが残ってて再び寝てしまった神崎さんがもう一度起きたのは、そこから二時間後の、日付をまたいだ時間だった。……私はその間、今度は一睡もできなかった。

さすがに朝までいるわけにはいかない、と思っていたものの、終電がなくなってしまって、始発までの数時間、ホテルでそのまま過ごすことになった。もちろん、ふたりとも起きながら。部屋の明かりも点けた。


目を覚まし、今度こそ酔いが覚めていた神崎さんは、やっぱり居酒屋さんからの記憶がほぼ消えていたみたいで、私とホテルにいたことに当然ながら驚いていた。
そして、心配そうに、「もしかして、俺……」と言ったきり言葉をつまらせた。
すぐになにを言いたいのかわかったので、恥ずかしながらも「なにもなかったですよ!」と答えた。

それでも、神崎さんからは何度も何度も「本当に? 本当に?」と聞かれた。
やがて、神崎さんは、ベッドのシーツが少し乱れてることに気づき、余計に心配になってしまったようで、私はつい、「これはキスされた時に乱れただけです!」と、余計なことを言ってしまった。
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