ドルチェ セグレート

ショコラと心の行方

「どうもありがとうございましたー。またお越しくださいませ」
　
会釈をして、小さな袋を受け取る。その足で、私は神宮司さんの元へと向かった。
　
あの日から二日後の今日は、火曜日。
偶然、次の休日が火曜日だった私は、神宮司さんにそうメールを返した。
すると、店休日だけど、お店には出てるということで、日中にランコントゥルで会うことになっていた。
　
お店に近づくにつれ、心臓がバクバクと激しくなっていく。
足を止めて目を瞑り、深呼吸を繰り返す。そして、念じるように言い聞かせる。
　
大丈夫。普段通りに、笑顔で。
　
ゆっくりと瞼を開け、最後にひとつ息を吐いた。
俯いていた視線の先には、さっき買ったチョコレート。
　
きっと甘いものを毎日のように食べてるのに、甘いものはどうなんだろう。
そうとも考えたけど、結局他が思いつかなくて。

チョコレートと言っても、専門店のもの。
甘いものからダーク系まで揃ってるお店で、個人的に好みなビターを買った。
　
もし、本当に私と嗜好が同じなら、喜んでもらえるはず。
そう信じて手に力を入れ、これを受け取ってくれたときに見れるであろう神宮司さんの笑顔を想像した。
　
大丈夫、大丈夫。神宮司さんは優しいから、ちゃんと喜んでくれる。
それに、万が一好みじゃなかったとしたら、正直に言ってくれるだろうし。
真っ直ぐ、正直に向き合ってくれる人だと思うから、どんな言葉も真摯に受け止められる。

――そう。そういう人だもん。色々きっと、私の考えすぎなだけ。
　
言葉ではそんなふうに余裕を見せていても、肝心の心臓は全く落ち着く気配をみせない。
　
店先に辿り着くと、ガラスに映る自分の顔が、まるで戦場にでも向かうような面持ちなことに気づく。
こんなんじゃ会えないと、表情を作りなおす。
　
すると、窓ガラスの奥で人影が動いたのに気づいて咄嗟に身を隠した。
　
神宮司さんだ。あと、もうひとり……遥さん？