雪降る夜に教えてよ。

*****



「おはようございます」

「ああ、おはようございます。今日は晴れましたな」

「そうですねぇ」

いつも通りの月曜日。

入口の警備員さんに挨拶して、エレベーターホールに行く。

数人の同僚たちが振り向いて挨拶し合う。

違う部署の人間でも挨拶し合うのは、社会人としては基本形。

私ひとりが四階で降りて、ドアの前っセキュリティカードをスキャン。

オフィスを開けると、窓からの光り以外は光源のない、誰もいない空虚な空間。

うん。これも普通。

隣の給湯室に入り花瓶に水を入れる。そこに駅前で買った花を添えて、入口近くのキャビネットに置いた。

先週は雪で、花も買えなかったんだよね。

佳奈には資格取りオタクと言われたけど、佳奈に習った華道の知識で花を整えていく。

それから各デスクの上をふきんで軽く拭いて、散乱している書類を整えた。

日課終了。

やっぱりキレイなオフィスじゃないとね。

ふきんを給湯室で洗って干していた時、オフィスのドアが開いた音がした。

いつもより早いけど、お局様軍団かな?

「秋元さん?」

低い声にびっくりして振り返ると、給湯室の入口に、桐生さんが寄り掛かる様に立っていた。

「おおおはようございます」

ちょっと噛んだけど、いつも通りな口調になったはず。
と言うか、この人は普段通りなら、ギリギリに来るんじゃなかったかな?

まぁ、いいけど。どうして無言?

「おはよう」

変な間をおいてそれだけ言うと、彼はさっさっと自分のデスクに向かって行った。

……心臓に悪いなぁ。

何事もなかった様に席についてパソコンを立ち上げていると、また声をかけられた。

「秋元さん。悪いけど、システムのヘルプデスクの子たちがみんな集まったら、就業前に僕のところまで来てくれるかな?」

「解りました」

いつも通りの人あたりのいい笑顔だ。
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