【改訂版】ワケあり上司とヒミツの共有
ストーカー男・笹木の強行

恐怖

キーンコーンカーンコーン――。


終業を知らせるベルが鳴る。時計を見ると、いつもの様に17時を指していた。

「もう終わりか」

私は「んん~」と唸りながら伸びをする。

「あ~っ!……さてと!今日は残業もないし、帰ろっかな」

カバンを手に取り、いそいそと帰りの身支度を整える。

「あ、そう言えば」

と、咲希子が急に何かを思い出した様に、カラカラとキャスター付きの椅子ごと私の所へとやって来た。

「なによ」

「さっき、アンタがお昼から帰って来るちょっと前に、アイツ来てたわよ」

咲希子のその言葉に、ギクッと手が止まる。

「……マジ?」

「マジマジ」

「何しに?」

「津田部長との事、聞きに来た」

私は、ガクッと項垂れる。来るかな?と多少の予測はしていたものの、まさか数十分後にやって来るなんて……。早過ぎはしないか?

「あっと言う間に広まったみたいね、アンタと津田部長の事」

咲希子は、持っていたボールペンを鼻と上唇に挟み、椅子の背もたれをキコキコと揺らしている。私はそれを見ながら、「呑気でいいな、コイツは……」と思った。

「ケータイに電話とかなかったの?」

「今日、慌てて家出て来て忘れた」

「あー……。じゃあ、着信凄い事になってるかもねぇ」

「やーめーてー」

咲希子の言葉に、背筋がゾッとする。

「気を付けなさいよ。早く帰らないとまた来るかもよ」

咲希子の台詞に、ガバッと時計を見た。
< 31 / 194 >

この作品をシェア

pagetop