彼女のことは俺が守る【完全版】
 雅さんと引っ越しをしてから始まった私の新しい生活は思ったよりも順調だった。最初はコンビニで買ってきたものを食べていたけど、メールで海斗さんが『調理用具は使っていい』と言ってくれたから私は冷蔵庫に食材を買い込み、自分のマンションで過ごしていたかのように自炊を始めた。


 引っ越しの時に調理道具は捨ててしまったけど、海斗さんのマンションのキッチンにはありとあらゆるものが揃っていて、料理をするのに何も問題はなかった。海斗さんはあのパスタを作った時の手捌きから料理はし慣れているというのは感じていたけど、こうやって大事に使われている道具を見ると、それは確信に変わる。


 でも、広い部屋で自分の作った食事を食べていると、不意に思い出したかのように寂しさを感じる。そすて、思うのは『今、海斗さんは何をしているのだろう?』ってこと。


 京都のロケは有名な映画監督の元での撮影で、海斗さんの役どころは難しいながらも遣り甲斐のある配役らしい。海斗さんが京都に行ってから、駅前の本屋で買った芸能雑誌に書いてあった。偽装結婚しようとしている相手のことを雑誌から得ようとするのも可笑しいけど、それでも私は少しでも海斗さんのことを知りたかった。


 毎日、会社とマンションを往復する日々を過ごしている。


 そして、私が一番楽しみにしているのは京都の海斗さんから届く『定期便』のようなメールだった。時間も十時に決まっている。遅れる時は事前に連絡を入れてくるという真面目さに申し訳ないと思いながらも嬉しさが募っていた。

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