彼女のことは俺が守る【完全版】

勇気を出した後

「はい。海斗さん」


 海斗さんの優しさは真摯でとっても深いと思う。その優しさは私だけなく誰もが勘違いしてしまいそう。海斗さんは演技派で有名な俳優なのだから、『婚約者を心から大事にする男』という演技も難なく出来るのだろうけど、海斗さんの言葉も態度も全てが私に勘違いしてしまいそうだった。


 偽装結婚なのに…私には海斗さんの存在が大きくなっていって、好きになってはいけないのに、好意が違う形で変わっていきそうで怖い。


「それでは失礼します」


 海斗さんは艶やかなバリトンの声を響かせてから新郎新婦控室を出て、海斗さんは私の手を取ると自分の腕に絡めさせる。その顔は穏やかな微笑みに包まれているのに、それでいて、瞳の奥には何かが強い光を放つ。


 控え室を出ると、海斗さんは私の腕を取ると、自分の腕に絡めさせた。



「幸せそうに甘える女を演じろよ」


 演じることなんか必要ない気がする。海斗さんと一緒に歩いているだけで私は幸せな気持ちになるし、守って貰えるということがこんなにも心地よい。海斗さんはさっき、優斗に宣言したように教会には入らずに駐車場の方に向かって歩いていった。


「式に参列するつもりだと思っていた」


「最初は結婚式に出席して、あの二人がどんな顔で入ってくるのを見てやろうと思ったけどやめた。里桜はこんなに可愛くしているのに、わざわざ苦しめる必要ないと思う。とりあえずお祝いの言葉も言ったし、里桜が幸せそうにしていれば周りも何も思わないだろ」

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