「ありえない…」


「そうだよね。初めて見たよ。修羅場って本当にあるんだね」


 私の呟きに間髪入れずに横から優しく響く魅惑的なバリトンの声が私の耳を捉える。低く掠れたその声はとても甘く、抑揚に独特の甘さを醸し出す声に振り向くと、そこには私の方を見つめ、優しく微笑んでいる男の人が座っていた。


 ブルーブラックのスーツをセンス良く着こなす彼の微笑みから目が離せない。端正な顔が私を見つめ微笑み、目を奪われるほどの魅力を零している。サラリとした薄茶色の髪が綺麗な顔を彩り、私の視線を釘付けにする。


「君とあの子だったら、間違いなく君の方が可愛いよ。彼は見る目がないね。まあ、君もあんな男を選ぶなんて見る目ない」


 そんなこと言われなくても私が一番よく分かっている。


 このタイミングで言われるとなると図星なだけに痛すぎる。多分、この人は私と優斗と高校の時の元友達との修羅場を一部始終見ていたのだと思う。さっきのショックから立ち直るどころか、現実としてまだ受け入れられない私にとって、彼の言葉は余りにも痛いものだった。


「関係ないでしょ」


「うん。確かに関係ないよ。でも、あんな男はギャフンと言わせたくない?同じ男としてああいうのは許せない」