彼女のことは俺が守る【完全版】
「一回で。それと、指輪は今日持ち帰れるか?」


「はい。工房の方で先ほどから作業に入っております。ちょうど、先ほどのデザインの商品でお嬢様の指のサイズのものがありました。裸石を入れ替えるので普段ならお時間を頂くのですが、今回は急がれるということもありご用意させて貰います」


「ありがとう。助かるよ」


「いえ、こちらこそ当店をご利用頂き誠にありがとうございます。では、失礼します」


 それからしばらくして持って来られた請求書にサラリと躊躇なくサインする篠崎海の横顔を見ながら、自分の置かれた立場が改めて怖くなってきた。私の意思とは関係なく徐々に外堀から埋められていくような気がした。


 私は金額が怖くて見る事が出来なかった。


 優斗とのことがあり、逃げ出したいと思って手を伸ばしたのを篠崎海はギュッと掴み、そして、それを離さないかのように外堀を埋めていく。篠崎海の立場から偽装結婚の相手が必要だったのは本当だったし、私も自分の環境から逃げ出したかった。


 でも、豪華なエンゲージリングを見て、不安になったのも本当だった。



 篠崎海と高取さんは二人で明日からの京都での仕事の打ち合わせをしている。話の内容からして、最後の確認という感じだった。その話を聞きながら、私は明日から本当に一人なのだと思った。


 先ほどの店長は手にビロード張りのトレーを持ってきて、私と篠崎海の目に前に置く。そこは黒の箱があり、それに先ほど選んだデザインの指輪が入っているものだと思われた。

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