キミが欲しい、とキスが言う
6.恋は掌をすり抜ける

 昨晩のキス未遂のせいで、せっかくの休みだったというのによく眠れなかった。
 目覚ましに起こされて、慌てて朝ごはんの用意をする。同じ頃に起きた浅黄も着替えると横にちょこんとやってきた。


「僕、手伝うよ。包丁、使えるようになったし」


踏み台の上に立って、自信満面で私を見上げてくる。
昨日、馬場くんと料理をしたことで自信がついたんだろうか。でも、その言葉は嬉しいけれど、朝は忙しい。早く作って食べさせて送り出さなきゃいけないのに、浅黄が手を切るかも……と気になりながらでは手早く動けない。


「ありがとう。夏休みになったらね。今日はお茶碗運んで」

「……はぁい」


空気が抜けたようにシュンとなって、浅黄は踏み台を下りる。
せっかくやる気になってるのに悪かったかなとは思うけれど、仕方ない。

時間になっても玄関チャイムはならず、不思議に思いながらも、浅黄の用意ができたので部屋を出る。
すると、表では馬場くんと興奮した様子の幸太くんが話しこんでいた。


「すっごいおいしかったよ、馬場ちゃん。俺にも今度やらせて」

「分かった分かった。今度な」

「うん!……あ、浅黄、おはよう!」

「おはよう。幸太」

「昨日の話してたんだよ。うちで、みんなびっくりしてたよ。お父さんもお母さんも魚さばけないって言ってたもん」

「もういいから、お前ら行けよ。遅刻するぞ」


馬場くんに促されて、ふたりは「行ってきまーす」と声をそろえる。下の道路を通っていくのを見送ったところで、彼はようやくこっちを見た。

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