魅惑な彼の策略にはまりました
②恋せよ、乙女



「でさ、四季はその最低に痛すぎる思い出を俺たちに語って何が楽しいの?」


私の向かいの席で二上宗十郎(ふたがみそうじゅうろう)が言った。

マニッシュなアッシュ系のショートヘア。美貌ともいえる整った容貌の持ち主であるこいつは32歳・男子。
一応、今をときめく超人気メイクアップアーティストだ。


「愚痴……どうひっくり返しても愚痴。楽しくはない」


居酒屋のテーブルにつっぷして答える私は、一昨日に遭った思い出を最初から最後まで語り終えたところだった。


「じゃあ、なんで語るかな」


「スッキリしたい……」


話しても絶対スッキリしないことはわかっていた。
でも、自分の中で貯め込んでいたら、その重みでつぶれてしまいそうだったんだ。

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