青と口笛に寄せられて
3 頑張ったご褒美に。


昨夜も泊めてもらった空き部屋のベッドに腰を下ろした私は、暖房がきき始めた少しひんやりする空間でボーッと一点を見つめて物思いにふけっていた。


フローリングの床に開け放ったキャリーケース。
そこには2泊分の着替え。
フェイスタオル1枚。
歯磨きセット。
携帯の充電器。
メイクポーチ。
ヘアトリートメントと、スキンケア用品。
1日目に買った、北海道のお土産諸々。


そんなほんの少しの荷物で、私はここに戻ってきてしまった。
住み込みで働きたい、と。
我ながら思い切ったことをやった。
アッパレと褒めてやりたいほどの決断力に自分で驚く。


今から2時間前に、この家の玄関先で泰助さんに履歴書を渡して伝えた熱意。
それを泰助さんは5秒ほど無言で受け取ったあと、あっさりとうなずいたのだった。


「すごく嬉しいです。ここを気に入ってくれたんだね。どうぞよろしくお願いします」


え、そんなに簡単に雇ってもらえるの?
みんなで履歴書見ながら私の面接とかするんじゃなくて?
数秒で採用が決まるなんていいの?
何十社も落ち続けてようやく決まった数年前の就活とかけ離れた現実に戸惑った。


でも、でも。
温かい笑顔で迎え入れられ、「残りでごめんね」と言いながらも食事を出してくれて、お風呂に入って、部屋にも通されて。


じわじわ実感が湧いてきた。


私、ここで働けるんだ!
犬ゾリに乗って感じた感覚やあの感動的な風景を、毎日味わうことかできるんだ!
嬉しくて、痛めていたはずの足首はもう痛くなくなっていた。


きゃー!と、ベッドにゴロンと横になる。
足をジタバタさせて、嬉しさを解放する。


頑張ろう。
今度こそ胸を張って堂々と出来るように。
楽しく生活してるよ、って誰にでも言えるように。


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