恋のお試し期間
念願のゴール!……のはずなのに。



最初はからかわれているのだと思った告白。
でも、もうためらわない。戻れなくてもいい。

覚悟を決めた。

でもダイエットはする。

だってこのままじゃ釣り合わないにも程が有る。


「どうした。生まれたての小ヤギみたいな動きして」
「あ。ども、えっと。筋肉痛です」
「へえ、そりゃ面白い筋肉痛だな。さすが日野。裏切らない」
「別に私はお笑い要員じゃないです」

のだが、行き成り派手に運動しすぎたろうか。
動きまわった翌朝には寝ても取れないダルさと関節痛とあと
筋肉痛とは違う普段運動してない人に起こりうる肉体的苦痛が来て
よろよろと気だるく歩いていた。

出来たら仕事休みたい。サロンパス体中に貼ってベッドでゴロゴロ寝ていたい。

バスを待っているとまた矢田と一緒になるが彼は心配するより関心したような顔。

「いや。結構面白いぞお前」
「真顔で女の子に言う台詞ですか」
「褒めたつもりなんだが」
「ほ、…褒め…!?」
「そうそう。そういうリアクション。ほんと飽きないよなぁ」

はははは、と馬鹿にしたように笑う矢田に不愉快そうな顔をする里真だが
今はそんな表情をするだけでも何処かの筋肉が引きつって痛い。痛すぎる。

朝の通勤タイム。

バスの中は当然のように満席。立ちっぱなしになるのもいつもの事、
だがそれがまたキツくて。里真は立っているので必死。
そこに矢田の心無い言葉。本当に酷い朝だ。

やっぱり自分なんかが不相応な相手と楽しくデートなんてバチが当たったのか。

彼と正式な恋人同士になりたいなんて、神様も笑っているのか。


しょぼくれながらも何とか踏ん張って立っていた里真。
こんな体力ではバスがちょっとでもブレーキを踏んだだけで

「うわぁっ」

盛大にバランスを崩す。

「っと。大丈夫か」
「すいません」

他の客へ力なく倒れ込もうとした里真をしっかりと抱き寄せ支えたのは矢田の腕。
さすが体育会系男子。見た目はゴリゴリしてないのに触れると硬くしっかりした体。
片手で難なく里真を抱きとめてもよろよろせずしっかり立っている。

「どうせお前の事だそんな大した運動なんかしてないんだろ。
普段運動してないからこうなるんだ。…まあ、無理そうな体だけど」
「よし。朝っぱらから矢田さんがセクハラしたって美穂子さんにチクろうっと」
「馬鹿。あいつそういうの凄い煩いんだぞ。この前なんか最悪で」
「はははは。やっぱ矢田さん彼女に尻敷かれてる。おもしろ」

同期なのに里真には何かと偉そうにしてる矢田が恋人の前では頭が上がらない。
想像すると何だか面白くてつい笑ってしまう。本人は嫌そうな顔をしたが。

「…今ここで俺が手を離したらお前どんだけ面白いリアクション取るだろうなあ」
「や、待ちましょうよ。助けた手離すとか鬼畜でしょう」
「会社ついたらコーヒーおごれよ」
「ひ、ひど…い、いえ。分かりましただからお願します」

結局こうなるのか。里真は彼に助けられつつ会社に到着した。
無事についたはいいがコーヒーをおごらされて朝からブルー。
こんな日は佐伯の店に行って甘いものでも食べたい所だが。

「食べないの?あんたの好きな饅頭なのに」
「…う、うん。食べない。ダイエット中」
「あ。そうだっけ。ごめんごめん」

誰かが休日行った旅行のお土産らしい、饅頭美味しそう。
でも痩せたいからお茶だけで我慢。

仕事のストレスよりも食べられないストレスの方が重たく圧し掛かる。
こういう日に限って他にも同僚が美味しいお菓子を買って来てたり貰ったり。
お昼も少なめであまりにお腹が減って上司の前で腹がなりそうになってトイレへ。

お陰で上司にも同僚にも「腹大丈夫か?」と言われる始末。

本当に酷い1日だった。

でも堪えなければ。全ては念願の本物の彼氏の為。


< 25 / 137 >

この作品をシェア

pagetop