あなたのヒロインではないけれど
第6話~水族館と幻の恋



7月初旬。


まだ梅雨が明けきらない空模様は、鬱々した気分にさせられるけれど。それを吹き飛ぶように嬉しい発表がなされた。





「見ろよ! 小さいけど出てるぜ、今回の新製品のニュースリリースが」


仕事場となった会議室で結城さんが経済新聞をバサリと広げると、そこに出ていたのは新製品情報。玩具のジャンルではアースィのぬいぐるみが写真付きで記事にされていた。


他にも結城さんはありったけの新聞を買い漁ったらしく、次々と広げては小さな記事も見せてくれる。大手新聞では小さな扱いだけど、確かに記事になっていて。これは現実なんだ、と身体が震えるほどの嬉しさを感じた。


(ゆみ先輩……あなたの夢にちょっとでも近づけました)


氷上さんをチラリと見ると、彼はいつもと変わらない笑みで新聞を眺めてる。


彼こそ、思い入れは人一倍あったはずで。私以上に喜ぶと思っていたのだけど。


(ううん、きっと個人的な事情だから。社会人として、大人として表に出さないだけだよね)


氷上さんは一見優しくて誰にでも公平、いつもにこにこしているように見えるけど。自分の感情を出すことは滅多にない。


他のメンバーが比較的素直でストレートに感情表現をする分、彼の控えめさはかなり特別な感じがした。


でも……あの日。


3ヶ月前での花見の夜。彼は珍しく荒れて深酒をした。


あの夜は何があったのか……私は、何も知らなかった。


< 132 / 245 >

この作品をシェア

pagetop