恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

10年分の距離

その日は仕事が休みだった。


夕方になって急に律子おばさんに呼び出されて、青山のcafe Torteに出向いた。


「北海道?」


事務所にあたしの頓狂な声が響く。


「そんな大きな声出さないでよ」


律子おばさんが笑いながらブレンドを啜る。


「北海道と福岡。もう決めたから」


「東京、大阪、愛知。今度は北海道と福岡。全国展開でもする気?」


「そういうわけじゃないけど。ほら、今キテるでしょ。パンケーキブーム? それに乗っかっちゃおうかなーって」


「どうしてもっと早く言ってくれないの?」


「ごめん」


言葉とは裏腹に律子おばさんは“テへ”とお茶目に笑った。


「もう土地も抑えて、来年の頭には着工に入るのよねえ」


「のよねえ、って言われても」


潤一の得意技は突然だ。


律子おばさんも負けてはいない。


来年の春にパンケーキ店Torteが北海道と福岡それぞれに店舗を構えることになった。


「募集かけて何人かと面接してみたんだけど。ピンと来るような人がいなくて」


そこで、あたしと小春に話が舞い込んで来たというわけだ。

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