だって、てっきり不審者だと思ったから。

戦わなければならない、と、学生時代に空手を習っていた私はとっさにそう思ってしまったから。

だって、まさか相手が彼だなんて思わなかったから。



だって、そう、だから。その言葉を言い訳のように心の中で繰り返して自分を守る。けれど、それでも事実は変わらない。

私が桐生社長に、回し蹴りをしたという事実だけは。





「……おはようございます」



翌朝、いつも以上に冷ややかなテンションでオフィスへやって来た私に、総務部の人々は何事かとこちらを見た。



「えっ、真弓さんどうかした?怒ってる?」

「怒ってません。少し寝不足なだけです」



笑顔がないのはいつものこと。けれど、いつも以上に不機嫌そうな顔は、ピリピリと怒っているように感じられるのだろう。

無愛想な顔で否定をする私に、皆は安心したように胸を撫で下ろす。



昨日はほとんど眠れなかった……。



数時間寝たものの、強盗に襲われ蹴り飛ばしたらその強盗が桐生社長だった、という夢を見てしまい飛び起きるということを三度ほど繰り返し、最終的に私は眠ろうとするのをやめた。

夢にまで見るなんて……最悪だ。



こぼれそうなあくびを噛み殺し、眠気覚ましに仕事をしようとデスクの上のパソコンを起動させる。



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