甘いささやきは社長室で

それがなんだか悔しいのです






抱きしめる腕に、心臓はうるさくて

これじゃあまるで、恋をしているみたいだ。







「おっはよー、マユちゃん!今日もかわいいねぇ」



桐生社長が風邪で寝込み、看病をした日の翌朝。

いつものように社長室へ出勤してきた私に、グレーのスーツに身を包み、髪の毛もきちんとセットをした完璧な身なりの彼は、元気な声とウィンクで出迎えた。



「……」



一方で私はその元気のよさとは対照的に、げんなりとした顔になる。



「って、あれ?どしたの?」

「……いえ。うるさいくらいお元気になられてなによりです」

「うん、マユちゃんの愛情お粥のおかげだよねぇ」



『うるさいくらい』を強調して言ったものの、そんな嫌味は通じていないらしい。桐生社長はへらへらと笑って私の肩を抱こうとする。

その手をスッと上手くかわして、私は社長室の中へと入って行った。



「マユさーん?なんか僕に対しての交わし方随分上手くなった気がするんですけどー?」

「お褒めいただき光栄です」

「褒めてないよ!?」



顔を見ずにデスクの上の書類に手を伸ばす私に、つれない、とでもいうように口を尖らせているのが背中を向けたままでも想像つく。




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