甘いささやきは社長室で



「定時であがらせていただきます……失礼します」



歩き出すと、足もとに落ちていたケーキの箱を踏んでしまう。けれどそれを掃除することもなく、私は黒いパンプスでカツカツとその場を歩き出した。



「お疲れさま、また明日ね」



社長室の茶色い大きなドアが閉まる寸前に、社長はそうひと言つぶやく。隙間から見えたのはまるで、イタズラを成功させて楽しそうに笑う、子供のような表情だ。

その表情に余計頭の中はかっとして、思い切りドアを閉めた。





「っ〜……」



なんなの。

なんなの、なんなのよ、なんなのよあいつは!!

へらへらしてると思えばいきなり近づいて、キスをして。



『どう?嫌いな奴にされるキスは』



どう、なんて、笑ってみせるなんて。



「っ……最低……」





本当に、なんなのよ。








< 25 / 215 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop