甘いささやきは社長室で
「桐生社長、おはようございます」
「おはよー、下山さん。今日もかわいいねぇ、彼氏と上手くいってる?なにか悩みとかあれば僕が食事がてら悩み相談でもしてあげるよー?」
「やだー、社長が言うとなんかやらしいですよ〜」
合コンから一夜明けた朝。
いつも通り出勤してきた私の目の前には、1階のロビーで女性社員とキャッキャと話す、相変わらずへらへらとしたその笑顔があった。
この男は……本当に相変わらずだなぁ!!
昨夜その口から初めて聞いた話をこちらが気にかけている一方で、桐生社長は相変わらずの笑顔で、その光景を私は冷ややかな目で見た。
昨日のあの表情が気になって、ちょっとは沈んでしまってるんじゃないかとか、いろいろ心配もしたけど……気にするだけ無駄だったみたいだ。
深いため息を「はぁ」とひとつ吐き出すと、私は黒いパンプスでカツカツと彼の背後を通り過ぎる。
「あっ、マユちゃんおはよー」
「おはようございます、先に上行ってますね」
「待って待って、僕も一緒に行くから」
そんな私を目ざとく見つけると、桐生社長は早足で追いかけ、私と一緒にエレベーターに乗り込んだ。
ちょうど誰もおらず、ふたりきりのエレベーター内で、12のボタンをカチッと押す。