甘いささやきは社長室で
ったく、もう……。
チャラチャラしてるだけじゃない。本当はいろいろ考えていて、孤独を感じている心もあり……実はとても、繊細な人なんじゃないかって、思う。
そんな彼に対する気持ちの変化は、自分にとっても意外だ。
……ましてやときめくなんて。ありえない。
先日の自分のドキッとする気持ちを否定するように言い聞かせると、そのデスクでは桐生社長が電話を終えてスマートフォンをポケットにしまう。
「マユちゃん、取引先来るの予定より少し遅くなりそうだから今のうちにお昼どうぞ」
「え?いいんですか?」
「うん。今入っておかないと食べそびれちゃうかもしれないし」
その言葉に時計を見れば、現在12時半。確かに、このままだと遅くなりそうだし……入れるうちに入っておこう。
そう「わかりました」と頷くと、私は先ほど取り上げたタブレットを桐生社長へ手渡し返した。
その瞬間、桐生社長は手で私の腰を抱き寄せ顔を近づける。
「わっ!」
突然近付く顔と、触れた腰。それらについぼっと頬が赤くなる。
そんな私の顔を見て、彼はふっとおかしそうに笑ってみせた。