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空気が重い梅雨が明けて、そう間のない七月の初旬。

今年の夏は猛暑になります、とニュースで言われていた通り、ここ数日だけで見ても、気温はめきめきと、上昇の一途をたどっていた。

セミは四方八方から、競うようにけたたましく鳴き、太陽は余すところなくふりそそぎ、世界をゆらめかせている。


……だがしかし。


セミの羽音が全く聞こえない、日光も全く差し込まない部屋に、本編の主人公である福原真由美は、立っていた。

その部屋というのは、大学病院の東館、5階に位置する第2オペ室。

そして、真由美の耳に届き、頭上に落ちてくるものはというと、


「~なんで用意してねーんだよ!?」


隣に立つ執刀医の、強烈な叱責だ。

ヒッと心臓を飛び上がらせた真由美に、容赦ない言葉は、間をおかずに降りそそぐ。


「血管処理の剥離後は絹糸って流れが鉄則だろうがっ!!」

「すみません!」

「どうでもいいことで時間食わせんな!!」

「……っ、すみません!!」


声がふるえそうになり、真由美はあわてて、くちびるを噛みしめる。

目下に露出している、握りこぶし大の心臓。

全身に血液を送る役割を持つ中枢器官に、執刀医の手が、よどみない動きで触れていく。

焦るな。集中しろ。次の手順はなにか。必要な器械はどれか。

何度もたたきこんだはずの知識を、真由美は必死で、頭から引っぱり出そうとする。

だが、引っぱり出そうすればするほど頭が回らなくなり、しまいには息まで止まりそうになってしまう。