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時の流れは早い。

社会人になってから、真由美はひしひしと、その事実を実感させられている。

地に埋まるほど落ち込んだとしても、回復を待ってくれることなく日は変わるし、新たなオペは始まるし、その先に待っているのはさらなる落ち込みと自己嫌悪だ。

それでも生きていられるのだから、人間って強い生き物だよなぁ……

そんな、妙に悟ったことを考えつつ、真由美は慣れた手つきで、パソコンの電源を入れる。

慣れた手つきと言っても、パソコンは自宅のものではない。大学病院の事務室に置かれてあるものだ。

現在時刻、午前6時すぎ。

始業開始まではまだ2時間近くあるものの、真由美はもうすでに、病院に出勤していた。

早朝出勤して予習に励むことは、真由美にとって、もはや習慣になっていた。

患者の情報はもちろんのこと、オペマニュアル含め、手術部のデータは基本、院外への持ち出しを禁止されている。

なので、家にいては確認できないことも多いのだ。

実のところ、暗黙の了解で、ほかの同期はこっそりマニュアルを端末に入れて持ち帰ったりしているのだが……いい意味でも悪い意味でも真面目すぎる真由美には、そういったずる賢さがそなわっていなかった。


「このときが18センチクーパー……で、切開に移るときは……」


オペの手順を表示しているパソコン画面を見つめ、浮かび上がっている文字を、小さな声で読み上げる。

23年も生きていれば、自分に合う学習方法とやらがさすがにわかってくるというものだ。

見て覚えるだけより、声に出す方法が自分には向いていると、真由美は今までの経験から理解していた。