不器用ハートにドクターのメス

看護師は前を向く

◇ ◇ ◇


手元が暗くならない、強烈な光を発する無影灯が、頭上から降り注いでいる。

ピ、ピ、とバイタルチェックの機械音が持続的に響く室内。

オペを受けている患者の目は綺麗に閉じられていて、細い喉が上下することもないため、その様子はまるで、人間を象った人形のようにも見える。


「ガーゼ、それから吸引」

「はい!」


真由美が用意したトレーからスルリと奪われた、軽い羽のようなガーゼ数枚は、あっという間に血の赤に浸かっていく。

今日真由美がついているのは、肝内胆菅切除のオペだった。

腹部を切り開く範囲が広いので、どうしても出血は多量になるが、このオペに限らずどのオペでも、多かれ少なかれ、血を見ることになるのは同じだ。

溜まった血。吹き出す赤。ノコギリで、むき出しになった骨を削る音。

最初は目耳をふさぎたくなるシーンばかりだったが、この仕事をしていると、いつの間にかそういったものに免疫ができてくる。

それに、数カ月前に比べ、真由美の器械出しの動きはずいぶんスムーズになっていた。

本人にしてみれば未だに必死にやっているので、自分がうまく立ち回れていることにも、オペに慣れてきていることにも、まだ気づけていないのだが。


患者の状態は至って良好で、オペは予定時刻ちょうどに終わった。

滅菌ガウンを脱ぎ、マスクを外す。

オペ室を出てほっと安堵の息をついたのもつかの間……続けてすぐに、真由美は嘆きのため息をこぼしそうになってしまった。

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