不器用ハートにドクターのメス
今日も今日とて、視線の先の真由美は、強烈にいかつい表情を浮かべていた。
鋭くつり上がった凶悪な目つき、への字と表現して違わない曲がったくちびる。
まるで、今から親の敵との一戦を控えているかのような、鬼気迫った雰囲気をまとっている。
神崎はそんな真由美に対し、相変わらず物騒な顔してんなぁ……とさらに目を細め、そして同時に、考えを巡らせる。
昨日のあれは、一体どう解釈すればいいのか――と。
昨日の早朝。
神崎は、書籍を戻すのを手伝ってほしいと、事務室にて見つけた真由美を、西館の旧書庫に同行させた。
目の調子が悪く、手伝ってもらえれば有り難いと思っていた。それは本当だ。
だが、その申し出には、実は他意も混じっていた。
自分が今まで接したことのない人物として、そして堂本との飲みでふと思い起こしてしまった人物として……神崎は、真由美に強く興味を抱いていた。
そんなとき、偶然事務室で見かけたものだから、手伝ってもらうという名目で、少しばかり接触をはかってみたいと思ったのだ。
一体こいつは、どんな女なのだろう。
旧書庫で二人きりになると、神崎は珍しく、自分から話題を振った。
真由美について、尋ねた。興味対象から、少しでも情報を引き出したいと思っていた。
ところが、質問先の真由美はとんでもなく不穏な眼差しを神崎に向け、ごくごく短い返答をしただけで、すぐに背を向けてしまった。
しかもそれからは、神崎の方を振り返ることすらしなかった。