焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
『サヨナラ』
付き合い始めて五年と十一ヵ月。
同棲を始めて二年と十一ヵ月のその日……。


「……もう、いい加減にしてよっ!!」


日頃から積もり積もっていた鬱屈した感情が、本当に些細なことで爆発した。


怒鳴ると同時に、手がジーンとするくらい強くテーブルを叩いた。
その衝撃で、テーブルの上に置いてあった醤油挿しがグラッと揺れる。


「うわっ……! バカか、お前! これ倒したら、大惨事だろうがっ!」


ここぞとばかりに、学生時代バスケ部で鍛えた反射神経を見せつけるように、私をこれほどまでに激怒させた彼……葛西勇希(かさいゆうき)が、四十五度傾いた醤油挿しを両手でハシッと支えた。
一度ホッと息を吐いてから、目を剥いて怒鳴り返して来る。


醤油くらいなによ。
そもそも並々入ってるわけじゃないのに、大惨事なんて大袈裟だって言うの。


勇希が心配してるのは、このテーブルの下に敷いてある勇希お気に入りのラグマットに茶色いシミが出来ることだけだ。


そんな本音が読めてしまうくらいに、私は多分勇希以上に彼を知ってる。
そして勇希も私以上に私を知っているせいか、『次』を予測して醤油挿しをテーブルの上からキッチンに避難させた。
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