焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
『そんなに嫌かよ』
日本最大のオフィス街の一等地。
平日五日間、仕事に明け暮れるビジネスマンも、週末金曜日の午後五時を過ぎれば、仕事に向ける集中力も欠いてくる。


俺も大多数のビジネスマンと変わらない、週末の夜の解放感を楽しみにしていた一人だ。
しかも今日の俺は相当注意力散漫になっていて、正直、仕事どころではなかった。


「あああっ! なんなんだよ、智美のヤツ! 全然わけわかんねえよっ」


金曜夜の解放感で華やぐオフィス街の一角にある居酒屋で、俺はビールを一気に飲み干した後、ジョッキをカウンターに打ち付けるように下ろした。


それほど広くない店内は、近隣のオフィス勤務のビジネスマンで混み合っている。
声を張り上げないと隣に並んでいても声が聞き取りづらいくらい騒々しい。
けれどそれは、隣の会話なんかに耳を傾ける余裕はないということでもある。
オフィス近くで彼女のことを思う存分愚痴ったところで、知り合いに聞かれる心配をしなくていいってことだ。


「……おい、葛西。まだ仕事残ってる俺を無理矢理飲みに連れ出して、女の愚痴になるなら俺は帰るぞ」


カウンターで俺と並んで座る千川は、冷めた瞳を俺に向けてくる。


千川は国内営業部に所属する俺の同期だ。
智美や島田さんも交えて付き合いを続ける、俺の『親友』と言っていい男のはずなのに、今の千川は妙に冷たい。
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